オンラインで変わる授業研究 森美術館の教師向けプログラム

昨年度から教師向けにオンラインプログラムを開催している森美術館(東京都港区)。全国から教員が参加しているという。美術館が運営するプログラムで、参加者はどんな学びを得ているのだろうか。

授業実践の悩みや課題もシェア

プログラム担当の高島純佳氏(左)と白木栄世氏(オンラインで取材)

5月中旬、森美術館は「学校と美術館のためのプログラム ONLINE」と銘打った、教師向けのオンラインプログラムを開催した。当日は愛知県や愛媛県、奈良県など各地から参加があった。参加者らは「アート思考」や「創造性」を切り口に、日々の授業実践の悩みや課題をシェアし合った。

同館ではこれまでも、学校や教員に向けたオフラインのイベントを定期的に展開してきた。開催中の展覧会に教師を招待し、キュレーター自らがアートを解説して、後半では学校の授業でアートを取り入れる意義や手法について意見交換するなど、盛りだくさんの内容だ。

STEAM教育への注目度が増して以降、学校現場で児童生徒のアート思考や創造性をいかに育むか議論される機会が増えた。さらに新学習指導要領やGIGAスクール構想など、学校教育に新しい風が吹くごとに、アートを通した学びをどうアプローチすればいいか、頭を抱える教師の声が目立ってきたと、プログラムを担当する白木栄世氏は説明する。

また、同プログラムは図工や美術科専門の教員だけでなく、どの教科の担当でも参加が可能。それも後押しとなり、教科横断の視点から、「国語とアートを掛け合わせるなら、どんな学びができるだろうか」などと、より発展的な問いを投げ掛ける参加者の姿も見受けられるという。

「なまはげ」テーマにアート思考を刺激

コロナ禍でオンラインに舞台を移してからは、授業づくりに関するディスカッションを中心に行っているという。もっぱらテーマにあがるのは、オンライン授業の在り方。美術館の見学や対面授業ができなくとも、子供たちのアート思考や創造性を刺激できる手法について、参加者とスタッフが一丸となり考えを深める。

特に、同館がコロナ禍で実施した子供向けのオンラインプログラムを紹介するコーナーは、参加者の注目度が高いようだ。

例えば、小学生を対象に昨年実施した「Meet the Artists(ミート・ザ・アーティスツ)」。その名の通りアーティストと子供たちがオンラインで出会い、自分たちの言葉で直接語り合いながら探究を深めるといった内容だ。

講師の1人は元小学校教師であり、アーティストの山本高之氏。「他者への想像力を養う」をテーマに、秋田県に伝わる「なまはげ」が自宅に訪れる地域の子供の気持ちについて考えるプログラムを展開した。

「Meet the Artists」 山本高之「イクトゥス」実施風景(2021.6.5) 撮影:田山達之、写真提供:森美術館

最初に子供たちは動画で、なまはげの怖さを臨場感たっぷりに体験。「もし、なまはげが家に来たら…」と現地の子供の気持ちを想像しながら、役立つオリジナルグッズを考案、制作した。「なまはげが好きそうな肉のモニュメントをつくればいい」「仲間だと思ってもらえるように、なまはげとよく似た衣装をつくる」など、個性溢れるアイデアが次々に生まれたという。

さらにでき上がった作品は、使用法などを解説したビデオレターと共に、現地の子供に届ける予定だ。

他にも、参加者が夢や希望を描いたプラカードを持ち、オンライン上でコールアンドレスポンスする「チルドレンズ・プライド」など、ユニークなプログラムを取り入れながら、子供たちがアートを通して自分の内面と向き合う時間をつくりだした。

教育関係者とは一味違うアーティスト視点の実践を知ることで、参加者らは「オンライン授業は、もっと自由なのかもしれない」と刺激を受け、自身の授業づくりに生かしているという。

激減する「本物を見る機会」

オンライン開催することで、オフラインと比べ、全国各地から参加者が集まるようになった。それに伴い、学校現場を悩ませる課題が、地域によって少しずつ違うことも分かってきたと白木氏は明かす。

「地方では都心と比べ、学校周辺に美術館などの施設が少なく、授業に活用しづらいという声が目立った。他にも専門外の先生が、人員が足らず美術の授業を担当することになり、手探りの状態で授業研究をしているといった話もあった」

一方、全国共通して課題に上がるのが、子供たちの「本物を見る機会」の減少だ。「SNSやYouTubeを通して、芸術や自然など世界中のあらゆるものが見られる時代。現代の子供はそれで見たつもりになって、知らないうちに本物を見たり、体験したりする機会が減っていると危機感を持っている先生が多い」と話す。

オンラインには利便性がある一方で、空気感や温度、色味、奥行き、質感……、本物でしか味わえない感動が得にくい。オンライン授業の可能性を突き詰めるとともに、いかにオフラインで本物に触れる機会を提供し、その尊さを伝えるかが、学校現場、美術館ともに課題となっているようだ。

同じくプログラムを担当する高島純佳氏は、美術館と学校が手を組んで児童生徒の学びのデザインを考えることについて、「いろいろな角度から子供たちの学びを広げたい思いは、私たちも同じ。美術館単体でアプローチしても、どうしても興味のある子供にしかリーチできない。一方で学校関係者の皆さんと協力すると、多くの子供にアートとの接点を作ってあげられる。まずは幼少期に出会いを提供してあげることが大切だと感じる」と説明。

「アートに触れると、今まで当たり前だと思っていた価値観が揺らぐなど、自分の中で変化が生まれる。子供たちには学びを通してそれを体感してほしいし、生活の中でもその発見を生かしてほしい」と、アートと学びの親和性について語る。