【連載】教育の落とし穴 子どもの安全・安心を考える ④ 事故情報が消えていく

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名古屋大学大学院准教授 内田良

 

■事故情報が公表されない

今年7月、とある市立中学校で起きた柔道事故の情報が公になった。男子生徒が柔道部の練習中に、同級生に投げられて頭を打ち、急性硬膜下血腫で意識不明の重体になったという。9月の時点でも意識は戻っていない。

この事故では生徒の体格差が大きく、投げた生徒は投げられた生徒よりも約70キロも体重が重かったようである。

実は事故が起きたのは5月である。だが公にならないまま、7月になってようやく情報が表に出た。

公表が遅れた理由について教育委員会は、保護者や投げた側の生徒の心情に配慮したためと説明しているという。

■事故を直視すること

事故のいちばんの当事者である被害生徒本人や保護者への配慮は、十分に必要だ。実際に、保護者の希望により、事故情報を公にしないことはよくある。

しかし、公表してほしくないという希望に沿うのが、教育委員会にとっても都合がよいことには留意すべきだ。教育委員会としては管轄する学校で重大事故が起きた事実は、けっして望ましいものではない。公表せずに済むならそれで済ませたい。「保護者が公表を望まない」と言えば、それで乗り切れるわけだ。

報道によると、実は今回の事案では、教育委員会は、70キロの体重差があったことさえ知らなかったという。体格差は、有力な事故原因の1つと考えられるはずだが、そうした基礎情報を得ていなかったのだ。

そこから垣間見えてくるのは、教育委員会はそもそも事故に向き合おうとさえしていなかったのではないかということである。

文部科学省の『学校事故対応に関する調査研究調査報告書』によると、平成17年度から25年度に学校管理下で起きた死亡事故と重度障害事故を調べたところ、事故後に検証委員会が設置されたのは、全体の19%に過ぎなかった。人の命や一生にかかわる事態の場合には、まずもって徹底した事実究明の調査が必要である。見向きもしないようでは、また同じ事故が起きてしまう。