【教室と世界をつなぐ「探求」(5)】ブレインストーミングが生徒にもたらすもの

株式会社教育と探求社 代表取締役社長 宮地 勘司
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クエストの授業には「ブレインストーミング」という話し合いの方法が用意されている。いまだ見ぬ未来について考えるとき、解決したい課題に取り組むとき、生徒たちはいつもこの手法を使って新しいアイデアを生み出す。

MITのダニエル・キム博士の「組織の成功循環のモデル」

ブレインストーミング(ブレスト)とは、集団発想法の一つで、思いつきやひらめきを自由に口にしたり、付箋に書いたりすることで、相互連鎖的に新たな発想を生み出していく手法だ。クエストの授業では、以下のようなブレストのルールが提示される。

1.仲間のアイデアを否定しない。

2.質より量、できるだけ多くのアイデアを出す。

3.とっぴな発言、風変わりな発言を歓迎する。

4.仲間の意見につなげたり、乗っかったりしながら新しいアイデアを考える。

生徒たちは、新たなアイデアを出すためにブレストに取り組むのだが、実はその中で副次的な価値が生まれてくる。

まずは「参加する全員がフラットで、何を言っても否定されない」という守られた場がつくられ、それを体験することだ。日頃は仲間の顔色を見たり、忖度(そんたく)して発言を控える生徒たちが、場の力に支えられてぽつりぽつりと自分の意見を言い始める。「それいいね!」などと仲間からの承認をもらえればうれしくなり、次第にテンションも上がってくる。しまいには、ひらめきをどんどん言葉にしながら皆がフロー状態に入っていく。スクールカーストを超えて、カタルシスが起こる瞬間である。プログラム実施後のアンケートでも「ブレストが最も楽しかった」と回答する生徒が多い。

生徒は、自分の発言が認められることで自尊感情を高めることができる。そして、仲間についてもさらに深く知るようになる。表面だけを見て、距離を置いていた頃とは違う関係性が生まれる。生徒同士の関係の質が変われば、心にゆとりが生まれ、考えることや考え方も変わる。思考の質が変われば、行動が的確なものになる。そうすればおのずと成果も出る。マサチューセッツ工科大学(MIT)のダニエル・キム博士の成功循環のモデル(図参照)だ。

私たち大人は、とかく成果物だけに目がいってしまう。どれほど素晴らしい企画ができたのか、それは実現可能なのか、と。しかし、大事なのはプロセスにおいて生徒が何を学ぶかということだ。関係の質が変われば生徒の幸福度が変わる。自分のことやこの世を信じることができるようになれば、学ぶ意味や喜びが広がる。すると成績もおのずと上がる。大事なのはそこから先に続く彼ら、彼女らの人生なのである。

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