学習教室「エルベテーク」代表 河野 俊一
「発達の遅れ」がある子供の指導に当たり22年がたちます。「適切な『教育』で発達の遅れは大きく改善する」と考え、事例を積み重ねてきました。その中には、社会人になった卒業生も多くいます。もちろん、個人差はありますが、子供たちが変わり、大人の思い込みや諦めをはるかに超えて伸びていく事実を、目の当たりにしてきました。
専門書を読むと、「発達の遅れ」がある子供について、さまざまな説明がなされています。しかし煎じ詰めれば、「発達の遅れ」とは、言葉の力やしっかり見る力、聞く力、言動をコントロールする力、覚える力などが不足しているため、子供自らの努力では指示を受け入れたり、理解したりできない状態が続くことではないでしょうか。
「教わる・学ぶ」という、子供には当たり前の過程・機能が、なんらかの原因で損なわれている状態と言ってもいいでしょう。
子供が「学ぶ難しさ」という困難に直面しているのと同じように、その保護者も子育てに困難を抱えています。「このままではだめだ」「なんとかしたい」と思いつつも、具体的な接し方・教え方が分からず、この「教える難しさ」という壁の前で、大きな不安と焦燥に駆られています。
したがって、「発達の遅れ」がある子供に教えようとする場合、知恵と工夫でこの壁に立ち向かおうとする意識的な行為こそ、教育そのものではないかと思います。
残念ながら、「遅れを受け入れよう」「できること、好きなことを優先して」といった対応だけで改善するのは、難しいのが実状です。「教える難しさ」という壁をそのままにしているからだと思われます。
ところで、「発達の遅れ」が認められないような子供であっても、よく観察すると、感情や行動をコントロールできず自分本位になっているケースがよくあります。周りから教わるという、応じる姿勢が整っていない子供です。
つまり、私たちがまず目を向けるべきは、この「教える難しさ」です。子供の側からすると、「教わる難しさ」「応じる難しさ」になると思いますが、この困難をいかに乗り越えさせようとするのか、それが子供の教育の核心ではないかと考えます。
「教える難しさ」には次の3つの側面があると思います。
(1)子供自身が「応じる・教わる姿勢」をなかなか身に付けられない
(2)親や教師、大人が、「教えることは押しつけだ」「無理をさせない」「遅れは個性・特性だ」と考える傾向が強くなり、教えることを躊躇している
(3)たとえ、教え改めさせようとしても、適切な指導の仕方が分からない
以上の困難な状況を打ち破るにはどうすればいいのか、この連載で皆さんと一緒に考えたいと思います。
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平成8年に幼児、小・中学生と発達の遅れを抱える子供を対象とした学習教室「エルベテーク」を開設。著書に『子供の困った! 行動がみるみる直るゴールデンルール』(新潮社)、『発達障害の「教える難しさ」を乗り越える』(日本評論社)他多数。