デジタル教科書 試行錯誤を前提に移行推進を(藤川大祐)

千葉大学教育学部教授 藤川 大祐

デジタル化の象徴的な課題として

本紙電子版10月6日付は、萩生田光一文科相、平井卓也デジタル改革相、河野太郎行政改革相の3閣僚会合で、教科書をデジタル教科書とすることを検討する点で合意がなされたと報じている。

学習者用デジタル教科書は2018年の学校教育法等の改正で、教育課程の一部において紙の教科書に代えて使用が認められるようになったが義務教育における無償給与の対象となっていないことやタブレット端末などの導入が進んでいないことから、普及は進んでいなかった。

しかし、菅義偉内閣が発足し、社会のデジタル化の推進を加速しようという流れの中で、言わば教育のデジタル化の象徴的な課題として、デジタル教科書への移行が出されたものと言える。ちょうどコロナ禍に対応して、1人1台端末を実現するGIGAスクール構想が前倒しになったこともあり、端末を有効に活用するためにもデジタル教科書の積極的な導入が求められることは当然である。障害や病気のある児童生徒への対応もしやすくなる。今後、義務教育においてはデジタル教科書の無償化を進め、デジタル教科書を使用しやすくすることが求められる。

だが、紙の教科書からデジタル教科書への全面的な移行となれば、慎重さが求められる。デジタル教科書に全面的に移行した場合、いくつもの問題が考えられるからだ。

目の負担、画面の狭さ、端末の管理など

第一に、児童生徒の目の負担の問題がある。タブレットなどの画面を長時間見続けると、目への負担がかなりあると考えられる。現状で文科省は、デジタル教科書の使用を各教科の授業時数の半分未満とすることを定めている。だが、どの程度の使用で視力にどの程度の影響があるのかは不明である。いずれにしても、デジタル教科書を日常的に使用するのであれば、一定の対策が、眼科医などの協力も得て検討されるべきであろう。

第二に、画面の狭さの問題がある。児童生徒が使用するタブレットなどの端末は、10~13インチ程度のものが多いと考えられる。B5判の紙の対角線が約12.4インチなので、端末をフルに使っても、1ページ分を表示するのがやっとだ。見開き2ページを表示するとかなり小さくなってしまう。ブラウザーやワープロソフトなどと同時に教科書画面を表示するのも厳しい。画面の大きさに合わせて文字を表示する「リフロー表示」を活用する必要があるが、そうするとページレイアウトは崩れてしまう。

第三に、端末の管理の問題がある。紙の教科書は破れたり汚れたりすることはあっても壊れることはないが、タブレットなどの端末には故障があり得る。故障して代替端末を利用するのであれば、データは常にクラウド上に保存されていなければならず、そうでなければ端末の故障とともに学習履歴などのデータが取り出し不可能となってしまう。代替端末の準備や修理対応など、教職員の負担も心配だ。

以上の問題に対処することができたとしても、デジタル教科書への移行がどの程度のメリットをもたらすかが不透明だ。

現状では、デジタル教科書の内容は、紙の教科書と同じと定められている。動画やアプリなどはデジタル教科書本体としてではなく別の教材として扱われるようだ。だとすると、デジタル教科書でできることも基本的に紙の教科書と同じということになってしまい、デジタル教科書のメリットは紙の教科書を何冊も持ち歩かなくて済むという程度になってしまう。デジタルならではの動画や音声、双方向性などの活用を積極的に検討すべきではないか。

全面的移行を急がず、紙との併用で

タブレット端末などの整備に合わせてデジタル教科書への移行を進めること自体は、必要である。全国一律で一気に移行してしまうと、深刻な混乱が生じかねない上に、デジタル教科書のメリットが見えないままとなる可能性が高い。文科省もデジタル教科書利用の実証研究を進めており、そうした中でデジタル教科書の効果的な活用方法が確立されていくであろう。当面は、デジタル教科書への全面的移行を急がず、紙の教科書と併用しつつ実験的な利用を広げるべきだろう。

私見であるが、デジタル教科書への移行に当たり、以下の点については特に検討をお願いしたい。

第一に、ICT支援員配置の充実。教員がICT支援員に頼れる条件でなければ、デジタル教科書への移行は教員の過剰な負担を生むだけである。

第二に、児童生徒の机のサイズの見直し。狭いタブレット画面だけで全てを完結させることはできず、紙の資料やノート、文房具なども机の上で使用することとなる。机のサイズに余裕がないと、作業がしにくく、端末を落下させる事故にもつながりやすい。少人数学級化と合わせた検討を望みたい。

第三に、授業時間の見直しと目の体操の導入である。児童生徒の目の疲れを考え、授業時間を短くしたり、日課の中に目の体操の時間を設けたりすることが求められる。


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