子どもたちのつぶやき、ときには声にならない声を聴き取るその時。教師にとって、自分を変える出来事を子どもたちがもたらしてくれるその時。子どもたちと教師の間に、豊かな交わりが訪れる。そのような出来事における“いのちの響き合い”を「教育のナラティブ」として、さまざまにつづっていく。
まどをあけてまっててね 教員がもらう最大の宝物
こうちょうせんせい 1ねん いしがき あい
(宮城県気仙沼市立大島小学校/平成24年度当時)
「ヘイあいちゃん」/いつものやさしいこえ/こうちょうせんせいの/あったかいこえ/このこえをきくと/とてもげんきがでるんだよ
「ヘイあいちゃん」/いつものわらったかお/こうちょうせんせいのにこにこえがお/このえがおをみると/わたしまでわらっちゃう
「ぎゃあ だんごむしだあ」/こうちょうせんせいの/おどろいたかお/てとあしもばたばたしている
こうちょうせんせいは/むしがきらい/しってたけど/こうちょうせんせいの/おどろいたかおがみたくて/つかまえてきちゃった/こんどは バッタを/つかまえてきてあげるね/いっひっひ
「がんばれ あいちゃん」/わたしをおうえんしてくれるこえ/いつもおおきな/やる気をくれる/一りんしゃでこうていを/五しゅうできるように/いっぱい いっぱい/がんばるよ/これからもおうえんしてね
たのしかったこと/がんばったこと/かなしかったこと/これからも/こうちょうせんせいと/いっぱいおはなししたいな/だから/こうちょうせんせい/いつも/こうちょうしつのまどをあけて/まっててね
この1年生の児童詩は、気仙沼市立大島小学校の校長を努めていた菊田榮四郎さんから、弊紙編集局宛に届けられたものである。ギターを弾いて子どもたちと一緒に歌う菊田さんは、定年退職後の現在、同市立大島児童館の館長と、その郷土が生んだ昭和期の児童詩人・水上不二の研究会長を努めている。
児童詩が送られてきた当時、「もうすぐ私も定年退職です」「一年生からすばらしいプレゼントをもらいました」「作文集の詩の部門で入賞した作品です」と書き添えてあった。
同校のある気仙沼大島は、東日本大震災の時、津波の猛威で陸とのつながりが完全に断たれてしまった。震災2日後から26日間は、小学校が遺体安置所となり、最大72遺体が安置された。
辛苦の末、学校はなんとか再開できたが、他所へと移り住む家族とともに、児童は1人、また1人と、島を離れていった。菊田校長は、フェリーが発着する港で、子どもたちを見送るたびに、こぼれ落ちる涙が止まらなかった。落ちるに任せ、ちぎれんばかりに手を振った。
そんな悲苦を超えて、その後、明日への希望を生み出す子どもたちの生き生きとした姿が、次第に学校に戻ってきた。
「こうちょうせんせい」の詩。それは、教育に携わる者への大きなプレゼントである。なにより大切な宝物であり、教育者を導いてくれる輝くともしびである。このともしびがある限り、教育者に涙で袖をすぬらす感性があるかぎり、人の希望は、決して失われない。その希望は、誰からも決して奪われない。
「あいちゃん、ほんとうに、ありがとう!」。菊田校長の胸に響いた感謝と喜びの声は、編集局に届き、そして今再び、みんなの心に鳴り響いているよ!
あいちゃんは今、4年生だ。