免許更新制見直しを中原淳教授に聞く(下)対話制度の活用術

教員免許更新制の見直しを巡る中央教育審議会(中教審)の議論で、中原淳・立教大教授は「職場は育成の中心」と述べ、対話を通じた人材育成を学校現場に導入する必要性を指摘。文科省は「教師と任命権者等との『対話』や研修の奨励が確実に行われるための制度的な措置」の導入を「中核的な仕組み」とする改革案を提案し、教員免許更新制見直しの道筋が浮上してきた。中原教授へのインタビューの2回目では、対話のメソッドとなる管理職やリーダー職との「1on1(ワン・オン・ワン)」など、学校改革を進める実践的な取り組み方法について聞いた。

(聞き手・教育新聞編集委員 佐野領)

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長時間労働是正の第一歩は、データの「見える化」
――教員制度改革を取材していると、教員免許更新制の見直しをはじめ、文科省に文句を言いつつ、その一方で文科省が何かの改善策を上から下に下ろしてくるのを待っているような、そういう学校現場の反応が気になるときがあります。コミュニティ・スクールなどを活用して、自分たちで課題を解決していく学校はどんどん先に行くけれども、そうではない学校の動きは表面に出てこない。結果的に子供たちに影響が及んでしまうように思えます。そうした制度改革と学校現場の問題解決力について、どう考えますか。

中原淳・立教大教授(以下、中原教授) 長時間労働是正の問題もそうですが、自分たちの職場の未来は、基本的には自分たちで変えるほかありません。制度は、職場を変えません。制度が後押しをすることはあっても、職場を変えるのは自分自身です。それが根幹です。一番大事なことです。

ただ、そうは言っても、やったことがないと思うので、そういう機会を作ってあげなければいけないですよね。

横浜市教育委員会の長時間労働是正のプロジェクトでは、現場の先生方に、まずその学校が何時間の労働をやっていて、どういう意識で働いているか、30問のサーベイで明らかにしていく。その結果をデータで見える化して、話し合いの機会を作り、やめるものを自分たちで決めていく、という研修をやりました。

誰でも、自分たちで決めたことしか、結局はやらないんです。

一昨年、共同研究者の町支大祐先生(帝京大学)、辻和洋先生(國學院大学)と私で、横浜市の新任の校長先生約80人に対して3回の研修をやったのですが、それを長時間労働の是正に当ててもらいました。レクチャーやワークショップをやった後で、「自分の職場の現状を見える化しましょう」と言って、こちらで作ったツールを渡しました。それを集計すると、全市の平均値と、自分の職場を簡単に比較することができます。例えば、自分の職場は疲れている先生が全市よりも多いね、でもやりがいを持っている先生も多いんだねとか、生徒に困っている先生も多いんだね、といった「対話の種」を調査であぶり出していきます。

それを使って「何を見直すといいんだろうか」という対話をしていって、やめるべきことを自分たちで決める。それをやっていくのが校長一人では大変なので、何人かの先生をキーマンに誘って学校を変えていく、という研修でした。

この問題を考えるためにビデオを作り、YouTubeで公開しています。このビデオは子供の立場になって、先生の働き方の現状を10分間で理解してもらい、組織調査を使いながら、長時間労働を是正するための方法を話し合うために作られています。

――校長先生の存在が大きいですね。

中原教授 校長先生の存在は、めちゃくちゃ大きいです。校長先生であっても、長時間労働是正の現状を見える化するツールのように、自分の学校の特徴を客観的に映す鏡がないと、絶対に問題の全体像を把握できないんですよ。

――なるほど。しかしながら、「職場を変えるのは自分たちだ」というマインドセットを現場の教員たちが共有するのは、なかなか難しいのではないでしょうか。

中原教授 でもですね、それならば「自分の職場を、どこかの誰かに、手を突っ込まれて変えられたい」でしょうか。多くの教員たちは、そうではないと思うんですよね。結局のところ、自分たちの職場は自分たちで変えるしかない。自分たちが決めないことには、やらされ感が伴う。自分たちで決めたことなら、やれます。

ただ、そのときには、ハードルを下げた方がいい。

教員たちは真面目なので、あれもやるこれもやると、やっちゃうんです。だから私は「スモールステップでいいと思ってるでしょ。でも、スモールステップではないんです、ベビーステップでいいんです」と言っています。もう本当にやれるだけのことを、まずやってみたらいい。そこで必ず成功の実感が得られます。その後で盛ればいい。最初から盛っていくと無理なんですよ。

民間企業の例で分かっているのですが、一気に職場を変えようとすると、だいたい1カ月から2カ月の間に死の谷がきます。やりがいの実感がなかなか得られなくて、そのうちに職場の力のある人が「こんなことやっても、何も意味ないよ」みたいなことを言い始めて、だいたい失敗します。だから、ベビーステップで始めるのがいいんです。

振り返りは、対話の中でしか起こらない
――文科省は、5月24日の中教審小委員会に提出した改革案のたたき台で、「公立学校の教師については、教員育成指標等に基づく体系的な研修の仕組みが教育公務員特例法により整備されており、本指標や研修受講履歴等を手がかりとした教師と任命権者等との『対話』や研修の奨励が確実に行われるよう、制度的な措置を講じることが必要ではないか」として、この措置を教員の資質能力の向上を担保する「中核的な仕組み」と位置付けました。取りまとめ役の加治佐哲也主査(兵庫教育大学長)は「こういったことができれば、免許更新制はなくてもいいのではないか」と指摘し、更新制廃止の道筋を示唆するところまで踏み込んでいます。4月27日の中教審合同部会で指摘された、対話を通じた人材育成という考え方が反映されているように思いました。教員と任命権者などが対話して、能力開発につなげていく仕組みを作るときに、気を付けるべきことはありますか。

中原教授 私は「任命権者と対話しろ」とは言っていないですね。学校には「対話」は必要です。ただし、無理をしないことです。管理職の負担が大きいなら、先輩やリーダー職との対話でもOKです。

ほかには、二つ思ったことがあります。

まず一つは、教員育成指標について。こういう指標は作ってもいいけれど、はやらないと意味がない。おそらく今はほぼ誰も話題にしない指標なのではないでしょうか。

研修の体系やカリキュラムに指標がひも付いているとしても、それは研修を開発する側のツールでしょう。現場で全く意識されてない。そういう指標を現場の教員に目指せといっても、使われなければ意味がありません。

先に申し上げたように、職場は人材育成の中心です。昔は研修のように、仕事の現場から離れた場所で行うものが成長につながると考えられていましたが、20年前に成長の現場は職場だという考え方に転換されました。

新しい仕組みは、研修をデザインするためではなく、学校現場の能力開発の中で語られるものにならなければ、意味がないと思います。

もう一つは、結局、振り返りは、対話の中でしか起こらない、ということです。「自分で振り返れ」と言っても、忙しいから振り返るわけがない。そういう意味では、誰かとの対話を通じて、自分の能力ややってきたことを振り返り、次に何をするかを自分で決めなければなりません。これを「経験学習」と言います。

そのための対話の相手として、任命権者が適当なのかどうなのか、正直言って、ちょっと懐疑的です。校長先生と「1on1」をやっても構いませんが、校長先生が一人で30人くらいの教員と面接するのは不可能ですよ。

――それは無理でしょう。一人の管理職がそんなにたくさんの人を相手に定期的な面談をしたら、管理職の方が精神的にまいってしまうかもしれません。

中原教授 ここで大事なのは「スパン・オブ・コントロール」という考え方です。一人の管理職が統制可能な人数は、だいたい7人です。それくらいしか、人は人を管理できません。しかも、一番大事なことは「1on1」をするために、普段から業務内容を見ていなければいけない、ということです。それは30人も常時見られるわけがありません。だから、任免権者との対話はちょっと微妙だなと思います。

この場合だと、おそらく校長先生の右腕になる人とか、あるいは主任クラスとか、そういう人を対話の相手にして、校長はそういうリーダー職の人たちと対話していく、というカスケードを作るのが現実的でしょう。

教員が7人ずつぐらいのグループになるとしたら、その7人がそれぞれの長と対話していって、その長と校長が対話する感じになるのかなと思います。

「1on1」の対話には型がある
――「1on1」を導入する場合、さらに気になるのは、本紙のオピニオン・解説欄に寄稿していただいた「対話がちゃんとできているのか」というところです(教育新聞電子版5月10日付「『対話』とは何かを理解しているか」)。学校の先生だから、対話がちゃんとできるのは当たり前と思いたいですが、共通の前提を踏まえて対話がきちんと成立するというのは、実は社会人であって十分にできていないかもしれません。年齢が上であっても、そういう前提が共有できているとは限りません。

中原教授 この仕組みを回すためには、管理職やリーダーの先生方に「1on1とは何か」「対話とは何か」ということを、それこそ対話しながら学んでもらわなければなりません。「1on1」は、「1on1」をする中でしか学べない。例えば、管理職が誰かに振り返ってもらう中で、相手が思ったことを管理職に対してフィードバックする。「あの言い方はないよね」とか。そういうことをロールプレイングしながらやるしかないんです。そういうインストールに管理職研修を使うべきだと思います。

――教員免許更新制の存廃を巡って、教員の能力開発のために「対話」をベースにした制度を学校現場に整備するとしたら、どのような注意点がありますか。

中原教授 最初に「1on1」の目的が何なのか、まずしっかりと把握することです。

「1on1」の目的は結局、部下が自分の仕事の中での成長を実感するために、振り返りを行うことですから、そこから目的をずらさないことが大事です。管理職によってはすぐ説教になってしまい、自分の言いたいことを言う場になってしまうと思います。

「1on1」には型があります。そういう型をしっかり練習し、学ぶことが必要です。それは管理職がやらなければならないことですよ。

ただ、管理職研修に1回呼ばれただけでは、できるわけがない。研修でロールプレイングをやって、実際に現場に行ったとしても、たぶん現場ではうまくいかない。そうしたうまくいかなかったことを持ち帰ってきて、フォローアップ研修をやる。これを2、3回繰り返すと、だいたいできるようになります。気の利いた民間企業は、そんな感じでインストールしていきますね。学校でも、そのための時間を取らなければなりません。

型は、やってみれば、そんなに難しいことではありません。でも、やってみないと、一生分からない、という性質のものです。

――初歩的な質問になってしまいますが、学校現場では「1on1」にあまりなじみがないので、もう少し具体的にやり方を説明していただけますか。

中原教授 いろいろなやり方がありますが、一番シンプルなのは、最初にまず話したい内容を決める。これは逆に言うと、例えば、部下に対して「この1カ月でどんなことがあったのか考えてきてね」と事前に言っておく。そういう振り返りは、部下も握ってないと、うまくいくわけがない。

そこで「最近、気にかかっていることはありますか」というふうに話していきながら、「どんな出来事があったの」「どんなことがよくて、どんなことが悪かったの」と聞いていく。一番大事なことは「じゃあ、次の期、1カ月先までに何をしようか」とか、「何を目標にしようか」「何をやってみようか」ということを部下と握っていって、最後には「今日は良かったね」「頑張ったね」と言ってあげる。これだけなんです。

この後に企業であれば、管理職同士でお互いの業務の振り返りすることあります。「1on1」をやってみた結果、部下側がちゃんと話せたかどうか。自分が思っていることをちゃんと話したかどうか。そういうことを管理職同士でお互いにフィードバックしてあげる。

そういう型のインストールが絶対必要なんです。

こんなに熱っぽく語っているけれど、これは基本的な話です。人材開発や人事の担当者なら、だいたい分かっていることですよ。それなのに、学校現場の人材マネジメントや能力開発の部分は、猛烈に断絶している。そこに衝撃を受けますね。

教師の能力開発はガラパゴス化している
――この断絶を変えていかないと、最終的には教員になろうと思う若い人は増えないような気がします。

中原教授 絶対増えないと思います。最近、大学で学生たちから「教員になりたいと思っていたけれど、長時間労働とよく聞く。メンタルがきつくて先生を辞めるという話も聞く。それなら、民間企業に行ったほうがよくないですか」という話をよく聞きます。あとは、教員養成系大学に子供を通わせる親が不安になっていますね。
どうしてこんなになってしまったのか。

私は人材マネジメントについて、いろいろな勉強会をやっていますが、医療・福祉業界の人はよくきますけれども、教育関連の人は全くきません。たぶん、周りの世界はどんどん変わっていく中で、教師の能力開発だけがガラパゴス化してしまって、もうどうしようもないところまできてしまったのでしょうね。

このままだと、教員のなり手が誰も居なくなってしまう。なり手がいなくなると、いま学校にいるスタッフが働かなければいけなくなる。そうすると、どんどん疲弊していく。疲弊するから、さらに萎縮する。萎縮するから、なり手がまたいなくなる。この悪循環にはまると地獄だと思います。

――公立学校の教員採用選考試験では、採用倍率(競争率)が年々低下しています。小学校の教員はピークだった2000年度の12.5倍が20年度には小学校で2.7倍まで下がり、過去最低を更新しています。地域によって状況は異なりますが、そうした悪循環はすでに始まりかけているのかもしれません。

中原教授 私はこの人手不足時代にあって、事業継続ができなくなった民間企業の事例をたくさん見てきました。人手不足の悪循環が加速すると、結局、店を畳まなければならない。このスパイラルは一回回り始めると止まらなくなります。

学校では、今はまだましなのでしょうか。でも、もう危ないですよね。手を打つなら、今が、本当に最後のチャンスだと思います。動くか、動かないか。それが問題です。

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