公立高校の社会科教員であり、教育系YouTuber「ムンディ先生」として活躍する山崎圭一教諭。教え方の基盤は、初任で勤務した特別支援学校にあるという。現代の高校生は、なぜムンディ先生の授業に魅(ひ)かれるのか。インタビューの最終回では、山崎教諭の教育論や生徒との向き合い方、授業動画の可能性について聞いた。
生徒の理解力と向き合う
――授業づくりで迷っている教員にアドバイスを送るとしたら、どんなことでしょうか。
受け手の視点、生徒視点を常に心掛けることでしょうか。特に中高の教員は教科担任制なので、自身の専門性が高くなるにつれて、生徒の理解度との間にギャップが生まれやすい状況があります。
私は教員になって最初に赴任したのが特別支援学校でした。重い障害があり、生きるのが精いっぱいな子供たちを多く見てきました。一方で、障害の程度によっては、教科の学習ができる生徒もいるのですが、その授業を担当する中でも多くのことを勉強させてもらいました。
生徒一人一人それぞれに違う理解力があり、それぞれに違う身体的な困難さがあり、一様には教えることができないことを、身を持って体感できたのです。それが私の教え方の基盤となり、目の前の生徒一人一人のニーズをよく見定めて、授業づくりをする習慣が身に付いたように思います。
ですから、成績上位の生徒ばかりを見て、高い点数を取り、良い大学に入りさえすればいいとは思いません。それよりもテストで10点や20点など、伸び悩んでいた生徒が50点を取れたとか、歴史嫌いの生徒が面白いと感じてくれたとか、そうしたことの方に価値を見いだすようになりました。
授業動画の可能性を掘り起こしたい
――学校教育全体について感じることはありますか。
ムンディ先生として活動する中で思ったのは、授業動画の可能性はまだまだ掘り起こせるはずだということです。国や地方公共団体などの公的な機関がお金を出して、しっかりつくり込んだ授業動画を配信すれば、かなりのニーズがあると思います。
その動画では私みたいなおじさん教員ではなく、アナウンサーや俳優のような伝えるプロが講義をしてもいいし、再現アニメーションを取り入れてもいい。アプリと連動させて受講者が問題に解答できたり、分からないことを質問できたりする機能があっても面白いですよね。
さらに他の受講者のコメントや質問をリアルタイムで閲覧できるようにして、共感したものにチェックをしたり、交流できたりするとアクティブ・ラーニングの視点にも対応できるのではないでしょうか。
もっと言えば、その授業動画を視聴したことで履修を認める仕組みができれば最高だと思います。
私の動画を見てくれている子供たちの中には「学校に通えてないけど見ています」「この動画を見て高卒認定を受けて大学に進学しました」などと言う子が一定数います。そのような学ぶ意欲があるのに学べず、苦しい状況にある生徒の救いになれるはずです。
夢は世界遺産からライブ配信で授業
――今後はどのような活動をされていきますか。
「歴史の授業ってつまらないな」と思っている高校生に、歴史的な知識だけでなく、歴史の楽しみ方を伝えていきたいと思っています。知識と知識をつなげるだけでこんなに面白く、豊かな世界が見えてくるんだよ、と。
例えば映画。「このシーンは教科書にあるこの事件をモチーフにしている」などと話し、「この主人公はこんな時代背景が影響して、こういう心情だ」などと、生徒と一緒に読み解いていく。
小説も博物館も旅行も全て歴史に絡めて、子供たちを豊かな世界に導きたいのです。
いつか挑戦したいと思うのが、YouTubeのライブ配信で世界遺産をナビゲーションすること。「今、アンコールワットの前にいます」なんて言いながら、歴史の話をする。行き先は生徒たちから募って「先生、ロンドン行ってよ」「マチュピチュが見たい」などのリクエストにどんどん応えるんです。知識を伝える授業ももちろんしますが、こうやって歴史の楽しみ方を見せていける活動にも取り組みたいですね。
――目の前の生徒を楽しませるのが、ムンディ先生の信念なんですね。
そうですね。書籍を出版したり、メディアで注目していただいたりとありがたい状況ですが、やっぱり一番うれしくて達成感を覚えるのは、年度の初めは授業中ほとんど寝ていたような生徒の「先生、今日の授業面白かったよ」なんて一言ですね。
(板井海奈)
【プロフィール】
山崎圭一(やまさき・けいいち) 再生回数1200万回を誇る世界史・日本史授業動画YouTuberであり、現役の公立高校教師。著書に小説のように「読める」教科書をコンセプトにした『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』『一度読んだら絶対に忘れない日本史の教科書』(共にSBクリエイティブ)などがある。